宮西「代数曲線入門」の付値と交叉数の計算

これは何?

宮西先生の代数曲線入門を読んでいて、平面代数曲線の付値の定義が出てきました。特に、

  • 局所環を単項イデアルとして表すときの生成元tって何?
  • 付値って実際どう計算するの?uがその局所環の可逆元になるようにf=t^nuと分解してnをとるわ けだけど、よくわかんなくなってきたので具体例が見たい!
  • 交叉数の計算のところを具体的に計算したい! と思ったので、簡単な例でやってみました

今回使う例

今回は、

  • f = X^2+Y^2-2Y、すなわち、(0, 1)を中心とした半径1の円。もちろん既約。
  • C: fで定まる曲線
  • P: 原点
  • R=k[X, Y]/(f): 座標環。 x, yX, Yの同値類。
  • {\cal O}_P: PでのCの局所環。つまり、{\cal O}_P = R_{M_P}で、M_P=(x, y)P=(0, 0)に対応するRの極大イデアルとして、このM_PでのRの局所化。例えば(x+y)/(y-2)なんかは{\cal O}の元だが、(x+y)/x^2はそうではない。y-2M_P=(x, y)の元ではな いが、x^2はこの元になってしまっているからである。

という設定でこの局所環について調べていきます。最後に、Cとその接線y=0との共有点について環を使って調べていきます。

局所環を単項イデアルとして表すときの生成元tって何?

補題2.3.1で次のように述べられています:

PCの非特異点とすると、{\frak m}_Pは単項イデアルである。すなわち、{\frak m}_P=t{\cal O}_Pと表わされる。

このtはこの後の議論に度々出てくるのですが、段々tって何さというイメージがなくて読むのが不安になってくるので証明を読み直しました。結論だけ言うとこうなります:

f_y(P)\neq 0ならt=xとすればよい。そうでないならxyを逆にする。(非特異なので、f_y(P)f_x(P)のどちらかは非零0)

この証明を上の例で追い掛けてみます。

fRの定義から、x^2+y^2-2y=0が成立している。左辺がxの倍数になるように、右辺がyの倍数になるように変形すると、 x^2 = y(2-y) となる。2-y \notin (x, y)なので、局所環の中で「2-yで割る」操作は可能であり、 y=\frac{x^2}{2-y} と変形でき、yは局所環{\cal O}_Pの中ではxの倍数である。したがって、 {\frak m_P} = (x, y) = (x, x^2/(2-y)) = (x) となり、示された。

気分として、このPのまわりでは局所的に、この曲線はxでパラメタ付けられてるということなんですかね。気持はわからないです。

付値って実際どう計算するの?

先に注意なのですが、この章のfCの定義に使われているfとは別のもので、記号の濫用が行なわれ ています。

56ページに、f\in {\cal O}_Pを、f=t^nuと分解しているところがあります。ここで、tは先程の、{\frak m}_Pの生成元、u{\cal O}_Pの可逆元です。この分解とnは度々使われるので、実 際に計算をして理解を深めたいと思います。 今回は、fとしてf=yを使いたいと思います。

いま、t=xをとっているので、yxで割り算することを考えます。 y={x^2}/{(2-y)}でした。1/(2-y)2-yをかければ1になるので可逆元です。つまり、これでt=x, n=2, u=1/(2-y)として求める分解ができました。

交叉数の計算のところを具体的に計算したい

補題2.4.5で

PCの非特異点ならば、{\cal O}_{C, P}/(g)は有限次元kベクトル空間である。その次元 について、\dim_k {\cal O}_{C, P}/(g) = v_P(g(x, y))となる。ただし、v_PCの点Pに付随した正規付値である。

とあるので、Cの原点での接線の交叉数を調べるには2通り方法があります。つまり、ベクトル空間の次元を直接数えるか、あるいは付値を使うかです。今回はこの具体例を使って両方やってみたいと思います。

ベクトル空間の次元を数える

定義から直接、ベクトル空間の基底を数えてベクトル空間の次元を数えてみる。 調べるベクトル空間は 
k[X, Y]_{A^2, P}/(X^2+Y^2-2Y,Y)
だった。イデアルを整理すると(X^2+Y^2-2Y,Y) = (X^2, Y)なので、k[X, Y]_{A^2, P}/(X^2, Y)を調べればよい。

最初にやっていた勘違いとして、k[X, Y]kベクトル空間の生成元1, X, Y, X^2, Y^2, \dotsたちのうち線形独立なものの数を考えればよいと思っていたのだが、よく考えたら調べるべきは局所環をkベクト ル空間として見たものなので、1/(Y-2)など「分数」たちについても考えて基底を考えなければいけないのでそこ まで素直ではない。

まず、割っているイデアルを簡単にして、 
(f, g) = (X^2+Y^2-2Y, Y) = (X^2, Y)
としておく。調べるべきベクトル空間は 
k[X, Y]_{A^2, P}/(X^2,Y)
である。「分母がない」多項式として考えるべきは、X^2Yが0に潰れることを考えるとaX+bの形だけである。「分母がある」元としては、1/(aX+b)の形だけを考えればよい(ただしa\neq 0)。ここで、aX-bを分子と分母にかけてみると、 
\frac{X(aX-b)}{(aX+b)(aX-b)} = \frac{X(aX-b)}{a^2X^2-b^2} = \frac{-bX}{-b^2} = \frac{X}{b}
となり、結局Xの「分母がない」多項式になった。そういうわけで、「分母がある」ように見える元についても実 際はそれは多項式であり、ベクトル空間の生成元は1Xだけになり、 
 \dim_k k[X, Y]_{A^2, P}/(X^2+Y^2-2Y,Y) = 2.
よって、これら2曲線のPでの交叉数は2である。

付値を数える

補題2.4.5により、\dim_k {\cal O_{C, P}}/(g)を計算するには、代わりにPでのgの付値v_P(g(x, y))を計算すればよい。これは、「付値って実際どう計算するの?」により2なので、 
 \dim_k k[X, Y]_{A^2, P}/(X^2+Y^2-2Y,Y) =  \dim_k {\cal O_{C, P}}/(g) = 2.